天候は晴れ、気温19・8度ながら7・1メートルの北風が吹き続けた。大会開催コースの佐世保カントリー倶楽部は標高400メートルの地にあり、体感気温は10度を切っているように思われた。長袖のウエアを重ね着したり、ウインドブレーカーを着込んだりする選手がいたほどだった。
シニアルーキーの野仲茂は、2位に1打差を着け、通算5アンダー首位で最終日を迎えた。シニア初優勝を飾りたい。その願い叶えたい一心だったが、難敵が同じ最終組にいた。今季すでに2勝を挙げている通算3アンダー・3位タイの井戸木鴻樹だった。強風下で井戸木はしぶとくパーセーブを続ける。野仲は3ホール目にボギーを先行して1打差に詰め寄られる。4ホール目にバーディーを奪って野仲はバウンスバックしたものの、井戸木も5メートルのバーディーパットをねじ込んで来た。井戸木は7番パー4ホールで2メートル、8番パー3ホールでも2メートルのバーディーパットをカップに放り込み、首位の座をついに奪われる。
しかし、野仲も意地を見せて9番パー5、ハーフターン後の10番パー4でもバーディーを奪い、再逆転して単独首位に立つ。初優勝への執念。井戸木が11番パー4ホールでこの日4つ目のバーディーパットを決め、通算7アンダーで首位の座を分け合う。試合は野仲と井戸木との一騎打ちと化したのだった。「強風下でコースコンディションが厳しい中、自分なりに良いゴルフをしていたし、実力は出し切ったと思います」と野仲は振り返る。
16番パー5ホールで野仲がバーディーを奪い、単独首位に立ったものの、続く17番ホールで井戸木がバーディーパットを入れ返し、首位タイで最終18番パー5ホールを迎えた。フォローの強い風。野仲はグリーンまで残り300ヤードの2打目を3番ウッドで打った。ボールはグリーン左サイドまで飛んだ。3打目をピン横4メートルに寄せる。井戸木はバーディーパットを外す。決めれば初優勝となる野仲のバーディートライ。構えるたびに強風が吹き付ける。アドレスを外し、風が収まると構える。2度、3度と構えてはアドレスを外し、ようやく打ち出したパットはカップを外れた。
通算8アンダーに並んだ野仲と井戸木とのプレーオフにもつれ込んだ。野仲はドライバーショットをフェアウエイ左サイドの林に打ち込み、レイアップを選択し、3打目はグリーン右サイドのバンカーに捕まる。一発ではグリーンオンできず、結局5オン。ボールをピックアップすると井戸木の帯同キャディーがボールを拭いてあげようと手を差し伸ばした。「大丈夫です」とジェスチャーして応えた。
井戸木は3打目をピン手前に運び、バーディーパットを打ち、ボールはカップ脇に止まった。その瞬間、野仲は負けを確信した。井戸木がパーパットを沈めると野仲はピックアップを宣言し、プレーオフの軍配は井戸木に上がったのだった。「勝つチャンスは最終ホールのバーディーパット以外にもありました。17番ホールで決め切れませんでした。トータルスコアは同じでも、最終日、僕は69で井戸木さんは67。2打の差があった。それが勝てるか勝てないかの違い。技術の差ですね。負けたからには原因がある。それを炙り出し、練習で克服して行くしかありません。ツアーは残り4試合。何とか間に合わせられるように頑張って行くだけです。勝てなかったけれど、それなりの収穫はあったし、自信を上積みできたとは思っています」。負けに、不思議の負けはない。敗れたからこそ得られるものがある。敗者は次の試合で勝者になる資格を失ったのではないのだから--。