森田徹(51)が夢のツアー初優勝を飾った。首位タイでスタートし、一時は倉本昌弘(65)に2打差をつけられたが、後半粘って倉本が崩れ、通算10アンダー134で、レギュラー、シニアを通じてツアーで初めての美酒を味わった。2打差の2位に河村雅之(54)、秋葉真一(56)が入った。
「まだ夢のような、信じられない気持ちです」。
最終18番パー5、フェアウエー右サイドから、張り出した木の枝を避けて、残り187ヤードの第2打を4番アイアンでスライスをかけた。「グリーン左のカラーに残ってくれたら」。グリーン左ギリギリに乗った。グリーンに向かって歩いている最中、何度もスコアボードを見た。ボードのてっぺんに自分の名前。1打リードし、追う秋葉は3オン。バーディーを取れば勝てる。20ヤードほどのパットは30センチについた。「頭の中が真っ白になっていました」というウイニングパットを沈めた。目頭を押さえた。
森田にとって「あこがれの舞台」太平洋クラブ御殿場コースで、初めての優勝。レギュラー時代に、この舞台での大会(三井住友VISA太平洋マスターズ)には一度も出られなかった。「やらせてもらえることをかみしめながら、1打1打打っていきたい」。そんな思いが通じた。
「プラン通りに行かないことは分かっていました」と、倉本PGA会長と首位に並んでのスタートでも、焦りや緊張はなかった。1番で「完璧なティーショット、セカンドだった」と、ピン右1.5メートルにつけるバーディー発進。「今日への手ごたえを感じました」と振り返る。4、6番でとったが、倉本も離れない。8番でラフに入れてこのコースで初のボギーをたたき、いったんリードされたが、9番では14ヤードの長いバーディーパットを沈めて追いつきガッツポーズもでた。
後半、いったんは倉本に2打差をつけられたが「逆に気が楽になりました」と、首位の緊張がほぐれた。倉本が14、15番連続ボギー、16番ではアゴに高いバンカーに入れてダブルボギーと崩れ、再び首位を奪回。真っ白の中でウイニングパットを沈め「夢がかなった。そんな感じです」と振り返った。
表彰式で着用義務のあるマスクの到着を待つ間、前週のファンケルクラシック後にアドバイスをもらった高橋勝成に報告した。「やったなあ、おめでとう」と言われ、ペットボトルの水を頭から掛けられた。「結果で恩返しできた」のがうれしかった。
どんなアドバイスだったのか。高橋は「昭和のゴルフをしていると。スタンスを広くして打っていた。それでフックに悩んでいたけど、フックしか出ない打ち方になっている、もっと体を大事に使いなさいといいました」と明かす。森田も「昭和のゴルフと言われました」と笑う。81をたたいたファンケルクラシックから1週間もたたずに、新たなゴルフを身に着けた。高橋は言う。「アドバイスって1カ所でいいんです。正しいことを1つ。出発点が分かれば、修正がきくんです」。森田は言う。「自分の体に高橋さんの言葉がスーッと入ってきた。でもこんなに早く結果が出るとは思わなかった」。最終18番の第2打のスライスに集約された。
どんな恩返しを?「1000万円もいただいたんです。緊急事態宣言が終わったら、ごちそうさせてください」と笑った。
報告したい人が2人いる。高校卒業後に出会った、師匠の1人の海老原清治には「すぐ電話入れます」と笑った。もう1人は2020年大会で優勝を飾った篠崎紀夫。18歳のころに共通の友人を通して知り合って、一緒に練習をしてきた。今回体調不良で欠場。「大会前に『頑張ってくれ』と言ってくれた。2年連続でチャンピオンに慣れたのに縁を感じます」と話した。
優勝インタビューで「これからはチャンピオンらしいゴルファーとして頑張りたい」と話した。どんなプロになりたいのだろうか?「一日でも長くプレーして息の長い選手です。来年まで試合の心配がなくなりましたけど、再来年になったらいなくなっているとかではなくて。メジャーも含めて、優勝争いに加われるような選手を目指したい」。そう話しているので、ぜひ顔と名前を覚えてほしい。
(オフィシャルライター・赤坂厚)