「えっ、嘘だろ!と思ったよね?」。そう尋ねられた同輩シニアルーキーは「ぶっちゃけ、信じられなかった。だって、あの暑さでのラウンド後に練習場でボール1箱を打ち、さらにお代わり2箱だなんてタフ過ぎる。いったい何歳?」。大会前日のプロアマ大会後、話題の主である「タフ」な髙橋勝成は卸たてのドライバーとアイアンの感触を確認したい一心でボールを打ち込んだのだった。
「クラブには、それぞれ癖ってありますよね。それを把握して置きたかっただけで、決して練習熱心ではありませんよ」。アイアンはヘッドだけではなく、シャフト硬度SをSRに変更した。シャフトのしなり度合いをアップして、ボールの打ち出し角を高めたのだ。「ボールが上がりやすくなり、ショットが左に引っ掛かりにくい利点があります。ラフからのショットでもフライヤーをそれほど気にしなくても済みます。だって空中でドロップさせればいいだけですから」と目を細めてみせた。
髙橋は8月5日で71回目の誕生日を迎える。今季シニアツアー2戦目のノジマチャンピオンカップ箱根シニア初日には3バーディー・1ボギー70で回り、今季初のエージシュートをマーク。その髙橋が今季2回目のエージシュートを会心のゴルフで達成した。
アウトコースからスタートし、2番パー5ホールで距離2メートルのバーディーパットを決め、3番パー3ホールでは1メートルを沈めて連続バーディーを奪取する。この時点でエージシュート圏内に食い込む。9番パー4ホールでは3メートルをねじ込み、3アンダーでインコースへハーフターンした。
「ドライバーショットもアイアンショットも曲がらない。まさにショットが切れていました。18ホール中、オナーではなかったのは4、5ホールあったかどうかではないですか」。同組で回った鈴木亨の帯同プロキャディー・柿沼基介は、髙橋の好調ショット好調に見とれてしまう場面が多々あったという。
3バーディー・ノーボギーの完璧ゴルフを紡いで迎えた最終18番パー5ホール。ピン位置は手前から13ヤード、左6ヤード。高橋はそのピンまで80ヤードの3打目をサンドウェッジで打った。「風向きはフォロー気味でした。ラフからだったことと、できればバーディーフィニッシュで上がりたいという欲が原因ですね(苦笑)」。ボールはグリーン左サイドのラフに捕まった。4打目のアプローチを確実に寄せて、パーセーブに成功して3アンダー・69でフィニッシュ。グリーンを取り囲んだギャラリーから大きな拍手が沸き上がり、高橋はキャップを取り、頭を下げたのだった。
「同じエージシュートでも70台と60台とでは、その重さが違います。前回は1ボギーでのスコア70でしたが、今回はノーボギーでのスコア69。嬉しさが、やっぱり違いますよね。できれば、バーディー奪取で締めたかったです」。日焼けした髙橋の顔から汗が滴り落ちる。この日、正午の気温は27・6度。午後からは、さらに日差しが強まり、気温は確実に上昇していた。「まずは、明日のためにもクラブの癖をさらに知るためにも練習ですね。それしか(スコアを縮める方法は)ありません」。高橋はドライビングレンジへと向かったのだった。70歳のシニアプロゴルファー髙橋は、体力も精神力も、まだまだ「タフ」なのだ。
(PGAオフィシャルライター 伝昌夫)