昨年シニア賞金王の寺西明が、今年の開幕戦で逆転優勝を飾った。首位の羽川豊とは1打差の通算3アンダー・2位タイからスタートした寺西は、2番パー4で3メートルのバーディーパットを沈めて、早くも羽川に追いつくと5番パー5ホールでのバーディーで単独首位に立つ。7、9番ホールでもバーディー奪取し、前半でスコアを4つ伸ばした。
この時点で通算7アンダー。2位に4打差を着け、独走態勢に入った。
前日の風速は毎秒2.6メートルだったが、この日はさらに風が強まり、毎秒5.0メートル。ピンフラッグは終始はためき、グリーンは硬さを増し、速さもアップして難易度は一段と高まった。選手たちは風に悩まされ、グリーンの難しさに手こずる中、寺西は「どこ吹く風」とただ一人バーディーを積み上げて行ったのだった。
「僕は前半スコアを伸ばせなかったし、逃げる立場だったにも関わらず6、7番ホールを連続ボギーにしてしまった。寺西くんはノーミスの良いプレーをしていました」と逆転を許した羽川は振り返る。
後半に入ると羽川は12、13番ホールで連続バーディーを奪い、寺西に3打差に迫り、意地を見せた。迎えた14番パー3ホールはフォローの風が吹いていた。寺西はピンまで167ヤードを9番アイアンでティーショット。「決して強くは振っていなかったんですけど」。ボールはグリーン上で大きく跳ね上がり、グリーン奥の池に消えた。優勝争い下でアドレナリン効果が強く働いたのかも知れない。羽川に付け入る隙を与える一打と化した。
猛チャージをかけたい羽川が15番グリーンで痛恨の3パットを打ってしまう。「イージーミスです。これで寺西くん楽にしてしまった。結果的に勝たせてしまいましたね」。羽川はホールアウト後、試合展開をそう解説してくれたのだった。
実は、14番ホール以降にも寺西にピンチはあった。16番パー4ホールの2打目。ピンまでは52ヤードだったが、ボールはディボット跡に入っていたのだ。サンドウェッジでのエクスプロージョンショットでピン手前1・5メートルに乗せ、そのパーパットを確実に沈める。「攻める守るのマネジメントに徹した」(寺西)プレーは、歯車が完全に噛み合った18ホールのプレーだった。さらに寺西の強さを証明したのは、最終日のアンダーパースコアが6名しかいない中で、唯一の60台をマークしたということだ。
寺西には開幕戦Vを引き寄せる準備を入念に整えて臨んでいたのだ。
2月上旬から大会舞台のかねひで喜瀬カントリークラブで1週間、3月に入ってさらに2日間の合宿を行っている。「風が吹き、地面の硬い中でのラウンドが生きました。今日の5メートルの風は気になりませんでしたし、硬いグリーンでも止めるボールが打てる強みが僕にはありましたからね」。
大会初日は首位タイで迎えた最終ホール。3パットで1打落とし、2位タイに順位を下げた。「ラインの読み間違えです。その悔しさと自分はパットでしのぐのが生命線ですから、ミスパットは許せないんです」と、日が沈むまでパット練習を繰り返したのだった。 さらには、左肩痛を抱えていたが最終日スタート前にトレーナーにマッサージを施してもらい「痛みは治まりませんでしたが、動くようにはなった」ことも勝因として挙げられる。
結局、寺西は後半を1ボギーでしのぎ、通算7アンダーでフィニッシュ。シニア直前にプロ転向した寺西が昨年シニア賞金王となり、そして迎えた今年の開幕戦をブッチギリの強さで制した。「真価を問われる初戦で勝てたのは自信になりますし、好スタートが切れたのは(2年連続シニア賞金王に向け)大きいと思います。プロゴルファーとしてプレーできる舞台、試合があることの有難さを噛みしめながらプレーした結果が、逆転優勝に結びついて嬉しい限りです」。
満足そうな顔をしている寺西に尋ねた。「レギュラーツアー時代に日本タイトルを奪取したスター2選手(羽川/日本オープン含2勝、伊澤利光/日本プロゴルフ選手権含む3勝)と最終組でしたが気後れはしませんでしたか」。
この返答が寺西らしさを表していた。「僕にとっては一プレーヤーであって、スターかどうかは自分が決めることですからね」。
たとえどんな選手が立ち塞がったとしても開幕戦優勝を飾るのはシニア賞金王の自分だ!その思いでティーオフしたことが伝わって来た。
(PGAオフィシャルライター 伝昌夫)