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シニアツアー

〈FANCL CLASSIC/FR〉鈴木亨、息子の目の前で13年ぶり2度目の優勝 「今日はゆっくり語り合いたい」

2022年08月21日

 トータル7アンダーの単独首位から最終日をスタートした鈴木亨は、1番のバーディで波に乗ると、12番までに5つのバーディを奪い。最終的に2位に3打差をつけるトータル11アンダーで今季初勝利。初日から首位を譲らない完全優勝でシニアツアー通算6勝目を挙げた。

 鈴木は4戦目の「スターツシニア」をコロナに感染して欠場。5戦目の今大会まで試合の間隔が空いていたのも重なって、「自分を見つめ直す時間がけっこうあった」という。「『ゴルフサバイバル』という番組で、若手に交じって勝ったんですけど、自分の振っている映像を見てがっかりしたんです。若いときの鈴木亨に戻るのは無理ですけど、もっとしなやかに振っていたな」と気づいた。

 そうして迎えた今大会では「飛ばさないゆったりテンポでいこう」と自分に言い聞かせた。スイングの感覚がよくなり、初日、2日目とトップを譲らずにトーナメントをリード。「今日の10ホール目まではゆったりテンポができていた」。10番パー5で4つ目のバーディを獲ったことでトータル11アンダーとなり、後続とは3打差に。「それで逆に負けられないパターンになって、やりにくい部分はありました」。さらに、12番パー3では7メートルのバーディパットを沈めて4打差。完全に独走態勢に入った。

 初日、2日目とボギーを打っていた難関14番をパーで切り抜けて迎えた15番パー4。「差が開けば開くほどプレッシャーってあるんですね。体が止まっちゃう。昨日みたいなゆったりテンポでは振れなかった」。ティショットは右の崖下に。2打目はグリーンを狙えずフェアウェイに出すだけ。絶好のライの3打目だったが、「やったことがないようなミス」でピンに寄せることができずボギーとした。それでも「あれだけ差があったし、ボギーに収まって良かった」と16番に向かうときには笑みがこぼれた。

 最終18番は、イーグルも十分に狙えるパー5。ティイングエリアに上がった時点で、鈴木はトータル11アンダー、後続はトータル7アンダーと4打差がついていた。ここで鈴木が持ったのは3番ウッド。「18番はイーグルもあるから、9アンダーというスコアは頭に入れなきゃいけない。と思うと硬くなっちゃいましたね」と苦笑い。相手がイーグルを獲ってもボギーで勝ちという場面で、しっかりパーで上がって勝ちきった。

 この日は、2日前にティーチングプロB級受講資格の筆記試験と面接試験を受けていた息子の貴之さんが会場に訪れて父のプレーを見守った。貴之さんが父の優勝を間近で見たのは09年のレギュラーツアー「マイナビABCチャンピオンシップ」以来13年ぶり2度目。1度目は中学1年生のときだった。前日には「息子の前で親父らしいところを見せたい」と語っていた父。その優勝を見届けると、「やっぱり父は偉大だし、超えられない人だと思っている。きょうはめちゃくちゃカッコイイ姿を見せてもらった。僕も同じゴルフの仕事をしていくなかで、すごく貴重な体験でした」と貴之さんは誇らしげに話した。

 貴之さんは高校からゴルフを始め、大学まで7年続けたが目立った結果は出せず。一度は一般企業に就職したが「やっぱりゴルフに携わる仕事がしたい」と会社を辞め、ティーチングプロを志した。現在は石井忍が主宰するエースゴルフクラブでレッスン活動を行いつつ、PGAティーチングプロ資格取得を目指している。「両親からゴルフというスポーツを教えてもらって、このスポーツで親にも恩返しをできたらいいなと思っている」と貴之さん。その言葉を伝え聞くと、父は「うれしいね」と満面の笑顔を浮かべた。

 父、母、姉、弟の鈴木家はかなり特殊だ。姉の鈴木愛理さんは人気アイドルで、小学生のときから芸能活動を行ってきた。父は4月~12月まで試合があるときはほとんど家にいないツアープロ。「お姉ちゃんの送り迎えをしながら、息子は父親や母親についてこないといけない時間があったと思うんです。もっと息子に力を入れていれば、あれだけ背があるので、違ったものを開花できたかもしれない」と父には後悔がある。ちなみに父は178センチで、息子は187センチ。「スコアでは勝ったことがない」息子だが、ヘッドスピード57m/s出るというドライバーの飛距離では、父を上回る。

 続けて父はいう。「まだ25歳なので、これからでも遅くないと思うし、何かを彼が見つけて人生を歩んでいってもらえれば。親として力になれればいいなと思います」と、息子への協力は惜しまないつもりだ。

 そして、「家族は4人で1つ。それをまとめているのがうちの女房だと思うので、本当に早く女房に会いたいし、『ありがとね』って言いたいですね」とまったく恥ずかしがらずに真顔でいう。特殊な環境を乗り越えたからこそ、家族の結束は強い。「きょうあたり娘のインスタに(鈴木の優勝が)上がるんじゃないですかね」といたずらに笑うのは、以前、同じように愛理さんがインスタにあげたときに、一時PGAのホームページがパンクしたからだ。

 表彰式は、雨が降り始めた影響で急遽クラブハウスの中で行われた。そこには父と息子が誇らしげな笑顔で優勝カップを掲げて写真に収まる場面も。「さっき写真を撮ったのが初めてなので」と優勝してから、なかなか言葉を交わせなかった親子。だが、帰りは2人きりで車を走らせ、母の待つ家路に向かう。「きっと渋滞がすごいじゃないですか(笑)。今日は2人でゆっくり語り合いたい」。渋滞情報もなんだかうれしそうな父の顔があった。