シニアツアー第2戦「ノジマチャンピオンカップ箱根シニアプロゴルフトーナメント」最終ラウンド。通算12アンダーでホールアウトした兼本貴司(51)、清水洋一(59)とのプレーオフへ。18番パー4ホールで行われた1ホール目。清水がボギー、兼本がパーを決めて大会初優勝。優勝賞金1000万円を獲得した。
「びっくりしています!55歳までには優勝したいと思っていたのですが、こんなに早くシニア初優勝できるだなんて、思ってもみなかったです」。
最終日朝スタート。昨夜コースに強雨が降った影響もありトップスタートを30分遅らせたが、次第に天気が回復してくるとコースは濃い霧に覆われ、さらにスタート時間を遅らせることになり、当初のスタート予定から1時間遅れとなっていた。早い時間の組が刻々と1番ティーインググランドを出発する。最終組スタートの兼本は、パッティンググリーンで淡々と練習に集中した。スタートまでの長い長い時間、練習に向き合わなけばならないほどに、気持ちが張りつめていた。
最終組スタートの時間には、第1組が前半9ホールを終えて後続に着く。すでにスコアの伸ばし合いといった混とんとした優勝争いがスタートした。兼本は3番パー4で、セカンド距離が残り175ヤード。風も計算に入れたが、選択したクラブはピッチングウェッジ。高まる緊張感で、思っているよりも飛距離が出ていた。残り8メートルにつけ、ラインを読み切り1つ目のバーディーを奪う。6番パー3は3パットボギーでスコアを落とすが、8番パー5で2オンに成功。清水が先に長いイーグルパットを沈めたが、兼本も負けじとイーグルを奪取。2つスコアを伸ばしたことで、リーダーズボードのスコアが入れ替わり、兼本と清水が首位に並んだが、9番ホールで塚田もバーディーを獲り、最終組3人がトップに並ぶ大混戦だった。
後半も一打の攻防が続く。12番パー5では清水がイーグル、兼本はバーディーで差が開いたかと思ったが、スコアボードでトップタイだとこの時に理解した。「そろそろエンジンをかけないと」と兼本は感じ、続く13番パー4のセカンドショットで勝負に出た。残り155ヤードを8番アイアンという選択には不安があったが、勇気を出したセカンドショットでバーディーを重ねた。最後まで清水も必死に食らいてくる。最終ホールでは、兼本のティーショットは左のラフへ。芝の絡まり合ったライの上にボールが残っていたが、グリーンまで運べそうなイメージが描けていた。ピンチかと思われた兼本のセカンドショットは、グリーンを捉え、2オン2パットとし、通算12アンダーで清水とのプレーオフに持ち込んだ。
プレーオフ1ホール目。2オンした兼本がパーパットを先に沈め、3オンした清水がパーを決められずに、兼本のシニア初優勝が決定したのだった。長い一日がようやく終わった。
1年前、期待されたシニアルーキー・兼本は、意気揚々と参戦を続けてきたが、思うようなプレーが全くできなかった。「当時は相当悩んでいましたから。クラブが開いてフェースは戻らない、チーピンやプッシュアウトが出る状態。体も綺麗に回らないし、ロングホールをアイアンで刻むのが怖かった」。デビューイヤーはノジマチャンピオン杯の12位タイが最高順位で、賞金ランキングは62位で終わった。
オフシーズンには、先輩プロを捕まえては技術的な相談を続けた。「シニアツアーのコースマネジメントを考えると、バックスピンがいらない、飛距離がいらない、フェアウェイにどれだけ残して100ヤード以内でどれだけ寄せられるかということだったんです」。兼本は1年通じて参戦してみて、取り組みに一番必要な3つのポイントに気付いた。
ハードヒッターの兼本も100ヤード以内の練習にも精を出しているという。「アプローチは基本的に56度のウェッジです。僕はクラブに頼っていますので、大き目にショットしてバックスピンとかも考える(笑)」。繊細な兼本だからこそ、1本のクラブにこだわりが強くなる。ドライバーショットの飛距離も、以前のように自分に期待せず「少し落ち着いてプレーできるようになって、ドライバーは曲がり幅が少なくなったのかなと思います」と分析している。
シニアツアーは開幕戦、第2戦とシニア初優勝が続いている。表彰式の壇上に上がった兼本は「先輩たちが見守る中で優勝を祝していただいて、本当に嬉しい。こんなに素敵な表彰式は他にはないですよね」と感慨に耽る。「両親、家族、支えてくれているスポンサーや、師匠の中嶋(常幸)プロに、直接優勝報告をして、感謝を伝えたい」。兼本は充実した表情をみせた。そして最後に「ノジマで家電を買って、これで奥さんにプレゼントできますね(笑)。冷蔵庫に、自動掃除機にと色々喜んでもらえるだろうなぁ」と、兼本に満開の笑顔がはじけた。優勝副賞に大型テレビもついていますよねと聞くと、「それは僕のリビングルームに入れたいね」と、無邪気な答えが返ってきたのだった。