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【日本GGユニテックスHD杯/1R】ガン手術から復帰戦の前年覇者・佐野修一は1オーバーに「ひどかった」と嘆くも、ゴルフができたことは「ものすごくうれしい」

2023年09月29日

「日本プロゴルフグランド・ゴールドシニア選手権大会」は初日の競技が終了した。60歳以上(1963年12月30日迄の出生者)のグランドの部は、61歳の久保勝美が5アンダーで単独首位発進、68歳以上(1955年12月31日迄の出生者)のゴールドの部は、68歳の室田淳と73歳の高橋勝成が5アンダーで首位に並んだ。明日の18ホールで60歳以上と68歳以上の日本一が決まる。



 今大会に特別な思いを持って臨んでいる選手がいる。昨年12月に前立腺ガンが見つかり、今年6月に手術、今回が復帰戦となる75歳の佐野修一だ。昨年のゴールドの部を制したディフェンディングチャンピオンは、初日を3バーディ・4ボギーの「73」にまとめ、1オーバー・14位タイで滑り出した。



 自覚症状はなかった。3カ月に1度病院に通っている検査で、数値に異常が見つかり、前立腺ガンと診断されたのは昨年の12月。「24個前立腺に針を打ったら、9個ガンが見つかって、すぐ手術をするしかないとダメだと。3年間も通っていて何の兆候もなかったんだよ。頭に来て手術なんてしないと思った」。病院への不信感もあり、すぐに手術には踏み切らなかった。ガンはいつ転移してもおかしくない危険な状態だったが、ホルモン療法でガンの増殖を抑えながら、今年3月のシニアツアー開幕戦、「金秀シニア」の68歳以上の部(ちゃーがんじゅーの部)で優勝を飾った。


 ホルモン療法の副作用は思った以上に苦しかった。「胸が大きくなってミキミキと痛かった。女にしちゃうんだから」。それ以上に、大好きなゴルフができなくなっても手術すべきか、手術をしないでプレーし続けるか、心は葛藤していた。「生きた心地はしなかった。手術しないで転移したら転移したらで、75歳だから、あと4、5年生きられればいいかなと思った」と死まで覚悟した。



 それに佐野にはどうしても出たかった試合がある。今年5月の「関東プロゴルフゴールドシニア選手権大会」(千葉県・船橋カントリークラブ、5月16~17日)と、シニアと女子のミックストーナメント「マイナビシニア&レディースカップ」(千葉県・藤ヶ谷カントリークラブ、5月20~21日)まで、手術をすることは頭になかった。「去年の日本ゴールドシニア優勝の権利があるから、(今年の予選を兼ねる)関東ゴールドシニアには出る必要がないんだけど、68歳になった若い仲間が出るし、一緒に飯を食ったり、俺も楽しみだった」。



 手術を決断できないまま、マイナビシニアでは杉原敏一と話す機会があった。杉原の父・輝男もまた97年に前立腺ガンが発覚したが、手術をせずにホルモン療法で10年以上プレーした。その後、2011年に亡くなっている。「親父さんはどうだった?」と佐野が杉原にぶつけると、「死に際になったら手術をすれば良かったとこぼしていた」と返ってきた。佐野の心は大きく揺れた。一方で、佐野が通う練習場の社長もまた、前立腺ガンを発症し、全摘出の手術を経験。「その先生を紹介するよと言われて」、ついにガンが見つかったのとは違う病院で手術を受けることを決めた。


 

その先生はロボット手術の権威だった。ロボットを使うと、人が切るよりも手術時間は圧倒的に短く、回復も早い。術後も問題なくゴルフができることも分かった。今大会を復帰戦と決め、「6月初めに手術すれば、9月末にはしっかり打てるだろう」と考えた。それでも復帰までの道は険しかった。手術の影響で力を入れて振ると尿が漏れてしまう。トレーニングで体力を早く回復させたいと思っても、「漏れるから力を入れられない。それがものすごく悔しくて」と、もどかしい日々をすごした。



 主治医の指示は「1カ月は絶対安静。酒もゴルフも禁止」。それでも佐野は手術から2週間でアプローチを開始し、1カ月を過ぎた頃にはフルショットを打っていた。お腹を切っているため、完全にもとの状態とまではいかないが、ゴルフができるまでに回復。いまも尿漏れ用のパットを入れているが、以前よりもその量は少なくなっている。


 

 そう考えると、復帰初日の1オーバーはすごいスコアにも思えるが…。「1つもすごかないよ。今日なんてひどかったんだよ。もっとやれると思っていたし、実際にフタを開けてみたら思うようにいかなかったな」と、その内容については一蹴する。



 しかし、またゴルフが出来たことについては、「ものすごくうれしいよ。これでまた練習する張り合いができた。あそこでショットが乱れたから、もっとこういう練習しなくちゃいけないなっていうというのが、いま頭の中にある」。話を聞いている最中も、早く練習に行きたいというのが伝わってくる。そして75歳は、「まだまだやりたい。やれるだけやろうと思っている」と目を輝かせる。



 「最後の俺のアプローチ見てた? 何だよ見てないのかよ。ドライバーを右のラフに入れて、球が沈んでいてピッチングで打ったら大ダフりして、池を越えたところからアプローチだよ。グリーンのこんなところにピンが切ってあったけど、これだよ」と手を30センチ幅に広げる。まるでゴルフ後の打ち上げみたいな会話。うれしそうに語る佐野から、ゴルフができる喜びがひしひしと伝わってきた。