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グランドゴールド

【日本GGユニテックスHD杯/前日】最年長出場の古市忠夫 80歳を過ぎて気づいた大谷翔平のような「笑顔でのプレー」

2023年09月28日

 「

日本プロゴルフグランド・ゴールドシニア選手権~ユニテックスHDカップ2023~

」が和歌山県にある

南紀白浜ゴルフ倶楽部

で9月29日、30日の2日間開催する。公式戦優勝者、シニアツアー賞金王、シニアツアー3勝以上を挙げているシード選手や、関東関西の予選会を勝ち抜いてきた総勢128名が出場する。68歳以上のゴールドの部は出場最高齢83歳の古市忠夫をはじめ、高橋勝成(73)、室田淳(68)ら60名が勢ぞろい。グランドの部では倉本昌弘(68)、奥田靖己(63)、芹澤信雄(63)、井戸木鴻樹(61)、久保勝美(60)といったベテラン選手が競う。賞金総額は2000万円でグランド優勝賞金240万円、ゴールド優勝賞金160万円となっている。大会は入場無料で、チャリティー抽選会、レッスン会、さらに出場プロゴルフ選手によるLIVEトーク観戦といったイベントが用意されている。

 そのなかで、ゴールド最年長出場となるのは6日前に83歳の誕生日を迎えた古市忠夫。5月にくまもと阿蘇カントリークラブ 湯の谷コースで行われた「関西プロゴルフゴールドシニア選手権」を10位(有資格者を除く13位まで)で突破して、今大会の出場権を勝ち獲った。

 古市は54歳のときに阪神・淡路大震災に遭い、自宅と経営していたカメラ店が全焼。すべてを失った。それからプロゴルファーを目指し、59歳でPGAプロテストに合格するまでの半生は、2006年に『ありがとう』というタイトルで映画化(主演:赤井英和)され、話題を集めた。

 プロゴルファーを目指すきっかけは「ものすごい偶然」だった。1995年の1月15日は日曜日で、翌16日の月曜日は成人式だった。古市はその2日ともゴルフに行って、普段は置きっぱなしにしないゴルフバッグを、車に入れたままにしていた。その前の月には20数年使っていた自宅近くの駐車場にマンションが建つことから立ち退くことになり、少し離れた駐車場に移っていた。

 そして1月17日、震災が起こる。自宅は全焼したが、幸いにも古市が止めていた立体駐車場の一部は被害に免れる。家財道具の中で残ったのは車とゴルフバッグだけだった。「車上荒らしに4回遭っているから、ゴルフ道具は車に入れたままにしない主義だったのが、たまたま入れていたし、駐車場も20数年入れていたところをたまたま退けた。あとから考えたらものすごい偶然が2つ重なっている」。

 これに運命を感じ、古市のゴルフ人生が始まった。1997年、57歳のときにシニアの認定プロテスト(2005年に廃止)を突破し、シニアツアーに出場し始めた。そのとき受け取ったのが「67」のベストスコア賞の30万円と、賞金38万5千円。合計68万5千円がプロゴルファーとしての初任給だった。「その年にローンを抱えて家が建ったんです。お金がものすごく要る時に天が68万5千円を恵んでくれた」と古市は当時を振り返る。

 町の復興に力を尽くしながらも、還暦間近となった2000年にPGAプロテストに合格。ほぼ同時期にPGA史上最高齢でインストラクターの資格も取得した。プロテストに一緒に通った同期には今でも言われることがある。「古市さんだけやで、プロテストの時にずっと笑っていたのは」。プロテスト最後の4日間は台風、豪雨、落雷に見舞われたが、古市は笑顔で駆け抜けた。「何で笑えるか? プロテストに落ちたくないとか、ナンボのスコアで上がろうとか、こだわってない。しがみついてないねん」。

 また、古市はあるとき、テレビを観ていてひとりの男が笑顔でプレーしていることに気づいた。「今まで野茂や松井やイチローを見てきたけど、三振しても笑っているのは大谷翔平くんだけやで。あれは怠けているのではなく、違う脳細胞が動いている。笑っていたら勝てる。それが分かってきた」。

 プロテストの時は意識していなかったが、大谷の姿にも刺激を受けながら80歳を過ぎてから笑顔でのゴルフを心がけるようになった。「老いるほどやな。歳いけばいくほど関心が出てきたね。笑顔はものすごい力があるっていうことやな。苦しいときににっこり笑うと、傷は最小限に食い止められる」。震災被害に遭い、仲間を失い、それでも前を向いて生きていかなければならない。古市には“ゴルフができる”喜びもあるのかもしれない。

 だから、今大会でも順位やスコアの目標については「ない」とあっさり言い放つ。「笑顔でプレーしたい。ニコニコせんでもいい。心が笑っていればいい。ぼやき、泣き言、人のせい、そんなことを言ったら絶対に結果はついてこない。自分のリズムで自分のスイングだけをする。心の中で笑っていたら、いいボールが出ると自分では思っている。心はときめいてツヤツヤとした青春の心でプレーしたい」。今大会唯一の80代は、ゴルフとの縁に感謝しながら、明日も笑顔でボールを打ち抜いていく。