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シニアツアー

【いわさき白露シニア/1R】「震えちゃって喉を通らなかった」小山内護はド緊張の初“弾き語り”を終え2位発進

2023年11月24日

 開幕前日に鹿児島県内のホテルで行われた前夜祭。明るいキャラクターでコースでは豪快にドライバーをかっ飛ばす小山内護は、これまでにないほど緊張していた。円卓のテーブルには豪華な料理が並び、鹿児島牛の名物ステーキといった料理が振る舞われたが、小山内が口にしたのは「サラダとソフトクリームとコーヒーだけ。震えちゃって喉を通らなかった」。



 この最終戦の前夜祭で歌ってくれと頼まれたのは2週間前のこと。前週の「すまいーだカップ」では、夜になると一緒に歌う横田真一と練習に励んでいた。「横田は道連れだよね。毎晩カラオケボックスにギター持って行って、練習したよー。だからあれだけゆっくりでアルペジオで弾けた」という。


 プロアマに参加したアマチュアと選手全員が参加した前夜祭会場には、大きなステージが設置され、宴もたけなわな終盤、トップバッターとして小山内が矢沢永吉の『もうひとりの俺』を“弾き語り”で初披露。「アンプなんかつなげてやるのも、やり方もしらないんだから」と、初めての弾き語りのステージに、緊張しすぎて食事が喉を通らなかったというわけだ。


 その後、横田がラッツ&スターの黄色いスーツ姿と口ひげ、サングラスで登場し、鈴木雅之の『恋人』を歌唱した。次いで2人の見せ場、カラオケボックスで練習を積んだ曲は玉置浩二の『メロディ』。小山内のギター伴奏に乗せて、横田が歌い上げた。『メロディ』を弾いたときの小山内の奏法が、弦をまとめてジャラーンとかき鳴らすのではなく、1本1本を指ではじく“アルペジオ”。3曲ともあまりのレベルの高さに会場は大盛り上がり。大きな拍手を浴びた。



 もともとシニアツアーには『5963ズ』(ごくろうさんず)というバンドがあった。メンバーはドラム担当でリーダーの高松厚、ギター担当は奥田靖己と中西信正、ベース担当の杉原敏一、タンバリン担当の芹澤信雄、ボーカル担当の加瀬秀樹、そしてMC担当で盛り上げ役の高見和宏から成る。奥田が「5963ズがもう終わるから、俺の代わりに。そろそろ世代交代だ」と白羽の矢を立てたのが小山内だった。



 もともと長渕剛や松山千春など、歌のモノマネレパートリーが多い小山内も、楽器を演奏した経験はなく「ギターの“ギ”の字も知らないのに」と笑う。奥田の後継者に指名されたのはコロナ渦の2020年で、その秋からギター教室に通いはじめた。1年通って弾けるようになると、今度は奥田から「御茶ノ水に行って高いの買っとけ」と、“楽器の街”御茶ノ水で20万円の中古ギターを購入。『Takamine(タカミネ)』という長渕剛のシグネチャーモデルが前夜祭で小山内が演奏したそのギターだ。



 最初は「指が痛かった」が、今では弾き語りができるまでに上達した。「ギターがオートマチックにいかないと、歌が音痴になる。ギターに意識が行くからね。本当に弾き語りは難しい。(シンガーソングライターの)優里とか弾き語りをしている人を見るとすげーなって思うよ」。そう話す小山内の両手の爪は「割れないように」きれいに透明なマニキュアが塗られ、「左は深爪、右はちょっと伸ばす」完全にギター仕様となっている。



 大役のプレッシャーから解放されたからか、最大瞬間風速15m/sの強風が吹いた初日を、3バーディ・1ボギー・1ダブルボギーのイーブンパーにまとめた。「上出来だよ。最高だよ。オーバーパーにしなかった時点で100点満点でしょ」と満足顔。アンダーパーが鈴木亨の2アンダーだけ、イーブンパーが小山内を含め6人、あとの77人はオーバーパーだったことを考えると、上々のスタートだったと言える。



 しかも、9番と18番に設定されたドラコン賞はどちらも小山内が獲得。アゲインストの9番パー4は240ヤード、フォローの18番パー5は296ヤードだったことからも、いかに強い風が吹いていたかが分かる。



 小山内は現在賞金ランキング54位(301万6592円)で、今大会では優勝か単独2位に入らないと、同上位30人までの賞金シードには手が届かない。それでも「最終予選の練習ラウンドだから」と本人に気負いはない。シード獲得を逃せば、来年のシーズン開幕前に行われる最終予選で上位に入って出場権獲得を目指すことになるが、そのコースも同じいぶすきゴルフクラブなのだ。大会は残り2日。初日をイーブンパーで耐えただけに、シニア初優勝のチャンスは十分。小山内の見事な弾き語りを今年で終わらせるには寂しすぎるだろう。