ティアップしたボールは落ち、バンカーの砂が舞い上がり、木の葉はバッサバサと音を立て、ヤシの木がゆらゆらと大きく揺れた「いぶすき白露シニア」の初日。最大瞬間風速15m/sの強風の中、アンダーパーで18ホール回って帰ってきたのは57歳の鈴木亨だけだった。17番、18番を連続バーディで締めて、2アンダーの鈴木がトップ。それに続くイーブンパーの2位タイグループは、横田真一、丸山大輔、小山内護、飯島宏明、野仲茂、宮本勝昌の6人のみで、あとの77人はオーバーパーというのが、きょうの過酷さを物語っている。
鈴木は「いいスタートが切れた」と、出だしの1番でおはようバーディを決めると、最終的には5バーディ・3ボギーの「70」をマーク。鈴木のホールアウト時点ではアンダーパーは4人いたが、終わってみれば1人になっていた。「この強風ではボギーの2つや3つは出るなと。とにかく大崩れしないことが大前提。逆に集中して18ホールできました。久しぶりにボールを打つときに集中できたというか、いいプレーができたと思います。何なんですかね。俺は普段集中力が足りないんですね」と、疲れ切った顔に笑みがこぼれる。
あまりの風の強さに「全英オープンを思い出しました」とも。ロイヤルバークデールで開催された1998年大会で鈴木は予選落ちに終わっているが、「130ヤードを6番アイアンで打ったことがある。それが僕の史上最大の風なんですけど、きょうは135ヤードを7番で打った。それに近いものがありました」と話す。また、アゲインストのホールでは「230ヤードくらいしかドライバーが飛ばない」という状況で9番、14番、15番などティイングエリアが前に出されたホールもあった。
鈴木が強風ゴルフで気をつけたことは「打ち急がないこと」。そして、グリーン上では傾斜と芝目と風を考慮してグリーンを読まなければならないが、ついた場所によっては難しいラインが残る。それについては「自分ではどうすることもできないので“運”」と割り切り、好スコアにつなげた。
このいぶすきゴルフクラブは鈴木にとって相性のいいコース。2004年まではレギュラーツアーの「カシオワールドオープン」の会場となっており、2000年には鈴木が制している。シニア入りしてからは18年と21年にこの大会で優勝。このコースで3度も優勝カップを掲げているのだ。「ここは3月に合宿で来ていて、グリーンキーパーさんも親しくしていて、みんな応援してくれる」。千葉県出身の鈴木だが、ホームのような雰囲気の中で戦えている。
今季はここまで12試合を戦って賞金ランキングは35位。上位30位までの賞金シードには届いていない。21年大会もシード“圏外”でこの最終戦を迎え、優勝という最高の結果で逆転シードをつかんだこともある。「このコースは何か待っていると思っている」と気分良く回れている。
前週は妻・京子さん(旧姓・丸谷)が「突然観に来て」とパットの不調に悩む夫のゴルフをチェック。『あなたはできる人なのに、あの打ち方じゃ入らないよ』と愛のある渇を入れた。京子さんは日本大学ゴルフ部の2つ後輩で、アマチュア時代はJGAナショナルチームに名を連ね、92年のプロテストに合格。鈴木のゴルフや性格は誰よりも理解している。
明日は風が穏やかになる予報で、残りは2日間。「(昨年まで)3年続けて優勝しているし、4年連続に伸ばしたいという気持ちを持ってやりたい」。20年から続くシニアツアーでの連続優勝更新をこの最終戦で目指す。