「第26回PGAティーチングプロ選手権大会サンコーカントリークラブカップ2024」の最終ラウンドはイーブンパー10位タイからスタートした大瀧一紀(Studio Trinity・32)が1イーグル8バーディ1ボギーの63と猛チャージ。トップと5打差を大逆転し通算9アンダーで大会初優勝。賞金100万円と来年の日本プロ出場資格を獲得。優勝副賞に阪神交易よりピンシーカープロX3プラスジョルトが贈られた。
最終ラウンドは首位とは5打差のイーブンパーまでに21名がひしめく混戦だった。“ティーチングプロ日本一”という称号を狙い、120名の決戦の火ぶたが切られた。5アンダー首位スタートの桐島崇文、3アンダー3位スタートの竹中智哉がスコアをじわり伸ばしていたが、最終組から5組前の大瀧一紀が前半で4つスコアを伸ばして、一気に順位をあげたきた。競技委員も「すごく飛ばす選手がいる」と噂していたのが、大瀧だった。
大瀧は第1ラウンドで上がりホールを連続ボギーでフィニッシュし、後味の悪さを感じていた。「四苦八苦したので、最終ラウンドは腹をくくった気持ちでスタートしました」と振り返る。最終日は1番パー5で1.5メートルのバーディを沈め、スタートから3連続のバーディと流れを引き寄せる。5、7番でもバーディ。8番をボギーにしたが、前半でスコアを4つ伸ばすことに成功。
ハーフターン後は安全なプレーを心がけて、12、13番で連続バーディ。ここがゾーンスイッチを入れたタイミング。15番パー5で「ティーショットが上手く打てたらチャンス」とフェアウェイから残り245ヤードを3番アイアンで50センチに着けるスーパーショットでイーグルを仕留め、16番もバーディと一気に後続を突き放す。
ラストスパートの上がりホールでは、気味が悪かったホールを克服。最終18番ホールではティーショットを右にまげ、ボールは木の下へ着弾。丁寧に状況判断をして打ったボールはグリーンを捉え、ピンまで2メートル。パーパットを沈めて堂々の首位でホールアウトしたのだった。それは着実にパーを重ねて63のビックスコア。本人も「キャリアベストです」と驚きの猛チャージとなった。
「本当に信じられないです。ミニツアーで64を出していたのですが、また試合中にベストハイを出せました」と大瀧は嬉しさをにじませた。
一方、最終組で追い上げをみせていた竹中は、大瀧の猛追を超えることができず、4つスコアを伸ばすにとどまり2打差の2位。「僕も全力でプレーができましたが、それ以上に大瀧さんは素晴らしいプレーをしていました」とライバルの健闘を称えた。
大瀧は福島県双葉郡の出身。2011年3月に富岡高校を卒業して10日後に、東日本大震災に見舞われた。「ちょうど自動車教習所の仮免許を獲ったばかりで、本試験の勉強をしていた最中でした」と振り返る。富岡町は原発事故の影響で避難を余儀なくされ、親戚を頼りながら静岡まで身を寄せたこともある。それからは福島にあるゴルフ場でアマチュアとして腕を磨きながら、研修生として働かせてもらった。
プロゴルファーを目指し、資格認定プロテストは4回挑戦。最終プロテストまで進出したこともあったが、一打及ばずに涙をのんだ。4度目のテストを完敗後、ゴルフを辞めるか続けるかと決断を迫られた頃、ワンデーのミニツアーで64のビックスコアで優勝し100万円を獲得。身の振り方を考えても、賞金を稼げることも味わった以上、さすがにゴルフは捨てきれない。ここでいったん競技ゴルフに区切りをつけ、ティーチングプロの道を目指すことを選択したのだ。
ティーチングプロB級受講資格のための実技試験がサンコーカントリークラブで行われ、大瀧は難なくパス。念願の講習会に参加し「自分のゴルフにも反映できるような内容がたくさんあって、講習会にはゴルフの魅力が詰まっていました」と教本の理論がすっと自分の中に入ってくる感触をつかんでいた。だからゴルフレッスンは自分の興味志向に見合った仕事だと、大瀧は自信を深めている。
現在は福島県いわき市にある「Golf Studio Trinity」でパーソナルゴルフレッスンに従事し4年目を迎える。競技ゴルファーを主体としたインドア練習場で、トレーニング施設も付帯し、レベル向上を目的としている。「福島で集客という意味では、プレーフィーも格安なので、なかなか数が増えないこともあります」という現実もある。「レッスンでは、シンプルで簡単にクラブが振れる身体の使い方をはじめ、ゴルフの力になれるように全力をつくしています」と目を輝かせる。
最近はレッスン活動に加え「経営に関しても興味があって、簿記の勉強もしています」と多忙な日々を送る。「プロゴルファーとして、自分で数字が読めることや、税金の仕組みなどを知ることは必要だと思っています。まだまだ学びたいことはたくさんありますよ」。大瀧の探求心はとどまることをしらない。
そういえば大瀧が試合中に着用していたウエア「clessidra」(クレシドア)というブランド。どこのメーカーのデザインなのか尋ねてみたところ「お世話になった先輩が立ち上げた“シャフト”のブランドなんです。ロゴもおしゃれだし、ウェアのデザインも色も気に入っています」と説明してくれた。所属、というわけではなく仙台で頑張る先輩のお店のブランドだというのも、粋がある。ここにも大瀧の「東北愛・東北支援」をしっかり感じられた。
来年の日本プロ出場資格についても「とても楽しみです。ティーチングプロの代表として予選通過を果たし、決勝でも成績を残したい」と期待を込める。32歳、福島県出身・東北代表ティーチングプロは、東北支援の思いを忘れることはない。今回の快スコアで得た自信を胸に、正々堂々と戦い抜くと誓った。