NEWS
ティーチングプロ

〔選手権News/FR〕最終18番でスーパー・パーセーブを魅せた大木昌幸がプレーオフを制し初優勝

2023年10月26日

「第25回PGAティーチングプロ選手権大会 新宝塚カントリークラブカップ2023」(6,485ヤード/パー71)の最終ラウンド。首位と1打差を追いかける大木昌幸(52・A)と、さらに1打差の5位からスタートした寺澤宜紘(40・B)が通算4アンダーで並びプレーオフへ。どちらも譲れない闘志あふれるプレーオフは4ホール目に突入。寺澤はボギー、大木はパーで大木がプレーオフを制し、第25代目のチャンピオンに輝いた。大木には来年の日本プロ出場資格(岐阜・富士C可児C可児ゴルフ場で開催)と優勝賞金100万円、さらに副賞として新宝塚カントリークラブからキャディバックとボール3ダース、ミドリ安全より腰部保護ベルト一体型ゴルフパンツMIDORI PF1、さらに阪神交易からブッシュネルプロX3ジョルトが贈られた。

 最終ラウンドは首位と3打差の間に16人がひしめく混戦状態でスタート。首位スタートの小川真之介がスコアを落とし優勝戦線から脱落。僅差だけに、誰もがこの戦いを早々に抜け出すチャンスを狙っていた。大木はスタート1番でバーディーを奪うと、4番でもバーディーを重ね2打のリード。前半のピンチホールは8番パー4。ミスショットが続く中、2メートルのパーパットをジャストタッチでカップイン。昨年大会では新宝塚の難グリーンにかなり手こずったが、今年は自分のパッティングが出来ていると確信。前半2つスコアを伸ばせたことは、大木の自信になっていた。

 前半でじわりスコアを伸ばしていたのが清水一浩(51)。清水はレギュラーツアーや下部ツアー出場の高い経験値を持つベテラン選手ということもあり、スコアの伸ばし方に関心が集まった。後半はベテラン清水と今年最終プロテストに合格した寺澤、そして大木の3名の戦いに絞られていく。

 大木が12番でボギー、寺澤が13番バーディー。清水が2人の流れにしがみつき優勝争いに加わる。しかし16番パー3で清水が脱落。上がり2ホールを迎えたところで、大木と寺澤の対決に絞られた。寺澤が通算4アンダーで先にホールアウト。大木は寺澤とトップに並んでいることを頭に入れて、最終18番のティーインググランドに立った。「ティーの高さが少し高いかな」と違和感を覚えたままクラブを振り抜くと、ドライバーのフェース上部にボールが当たり、「テンプラ」ボールは左サイドにあるペナルティエリアに消えていった。慣れない緊張感から生まれたミスショット。この大一番でまさかの失態だった。

大木は3打目ドロップ措置とり、ピンまで残り230ヤードを4番ウッドでしっかりと振り切った。「フェースを開いてカット目に抑えて打ったので、そんなに手ごたえは感じていなかった。だけど距離は届くクラブだし、狙った方向にはしっかり打てていました」とボールの着弾地点を見守った。するとグリーン付近で最終組のプレーを見ていたプロの仲間から大きな歓声が上がった。ボールはピンまでわずか1メートルの距離に届くスーパーショットだった。緊張感の中、手元もしびれる状況だったが、大木はラインを読めていたこともあり、スーパーパーセーブ。首位タイ4アンダーになんとかしがみつき、寺澤とのプレーオフにつないだ。

1ホール目、大木、寺澤ともにパー。2、3ホール目も両者譲らずパーで緊張感も高まっていく。4ホール目のプレーオフ。寺澤のセカンドショットは、グリーン左サイドにある丘の上段傾斜へ。絶妙のアプローチでグリーンを捉えたがパーならず。一方、大木はグリーン手前からアプローチでピンに寄せて1パットのパーで決着。大木にとっては初のプレーオフ戦だった。夕暮れの中で4ホールを耐え抜き初優勝。ティーチングプロ日本一のビックタイトルを獲得した。

「毎回優勝目指してエントリーしていますが、こんな形で決着するだなんて思ってもみなかったです」と大木は表彰式後も放心状態だ。一年に一度のティーチングプロ選手権出場を楽しみに練習を重ね、過去3度(伊勢、静ヒルズ、矢吹)最終日最終組で戦った経験値も生きたようで「年々うまくなっている気はしていました。若い選手には飛距離で差をつけられますが、自分の身体に見合った効率の良いシンプルなスイングができています」と手ごたえを感じ始めたところだった。

 プロ人生で初の優勝を獲得した大木だが、ゴルフを始めたのは20歳の時。大木の親戚がショートコースを経営してはいたが「危険だからって、やらせてもらえなかったんですよね」と苦笑い。高校卒業後は服飾関係の専門学校に進学したが、就職には向いていないと判断した。

 大木は別の勤め先をと探している中で、これまで身近にあってやったことのないゴルフ場の求職を見つけて、ゴルフ人生が始まった。静岡県にあるベルビュー長尾ゴルフ倶楽部で働きながらゴルフの腕を磨き、32歳でティーチングプロの資格を獲得。現在は静岡県にあるジョイランド江原ゴルフ練習場(沼津市)を中心に、ジョイランド大仁ゴルフ練習場(伊豆の国市)、ゴルフクラブフォレスト(伊東市)で週5回のレッスン活動を中心に生計を立てている。レッスン生は約50名。生徒さんの中には10年を超えて長い付き合いをしている人もいるといい、大木の出場する選手権出場を楽しみにしてくれるのも、競技を続ける大きな励みになっていたようである。

 選手権優勝者には、来年、岐阜県にある富士カントリー可児クラブ可児ゴルフ場で開催される日本プロ出場資格も付与される。大木は「本当は昨年近所で開催されたグランフィールズで出場したかったんですけど、叶いませんでした。今回このようなチャンスをいただけたので、トレーニングしないとなって思います。最終日同組だった22歳の小川プロとは40ヤードも置いてかれましたからね。新たな目標ができて、この一年の取り組みが楽しみです」と期待に胸を膨らませた。

 今年のティーチングプロ選手権は、最終日最終組でプレーする52歳の大木が、最終18番ホールのスーパー・パーセーブから良い流れに変えて優勝という劇的な幕切れだった。インタビューの最後、大木に優勝できた最大の要因を尋ねると「ゴルフは最後の最後まであきらめないことなんでしょうね。あきらめず選手権に出場を続け、優勝を目指していましたから」と答えが返ってきた。「嫁さんにもたくさん期待をさせてきましたから、これで良い結果を持って帰れます。小学3年になる娘には、勉強でも諦めないことが大事なんだと伝わったら嬉しいです」と頬を緩ませた。

 大木は選手権前の2週間、レッスンの合間を縫って静岡の実家で早生みかんの収穫を手伝ってきた。1200キロもの出荷を終えて挑んだティーチングプロ選手権は、日本タイトルという大きな収穫高もついてきたのだった。